神奈川県鎌倉駅の東口を出てすぐ。一歩足を踏み入れると昭和の世界に入り込んだような感覚を覚える丸七商店街にちょこんと佇むベーグル専門店「ぐるぐるべゑぐる」が2025年5月末日、多くのファンに惜しまれつつ、その営業に幕を閉じました。
全国に展開する「パンとエスプレッソと」直営店としてのスタート
同店は、パンとコーヒーの店として全国展開する「パンとエスプレッソと」直営のベーグル専門店として2019年8月にオープン。
バターの豊潤な香りとしっとり滑らかな口溶けで多くの人を虜にする食パン「ムー」を看板商品とした「パンとエスプレッソと」が新たにベーグル専門店をオープンするということに、当時アンテナをピン!と立てたパン好き・ベーグル好きも少なくなかったでしょう。
その後、2022年6月からは「パンとエスプレッソと」から暖簾分けという形でオーナーが独立し、総じて6年間に渡りベーグル好きはもちろん、地元の方、鎌倉を訪れた観光客のお腹とお土産袋を満たし続けました。
店長の渡辺さんがベーグルと出会ったのは、学生時代のアメリカ テキサス州。朝食に出たプレーンベーグルのシンプルなおいしさに惹かれ、毎日のように召し上がったといいます。
余談ですが、筆者もベーグルとの出合いは、カナダ トロントの田舎町で過ごした学生時代。
町の至る所に展開しているコーヒーショップに並ぶ、さまざまなフレーバーのベーグルたちでした。「クリームチーズを塗るだけで、なんでこんなにおいしいのだろう」シンプルが故に飽きのこない味わいの虜になり、渡辺さんと同じく毎日のようにお店に通い「シナモンレーズンベーグルをトーストして、クリームチーズを塗ってください」が一番流暢に話せる英フレーズになりました。
ちょっと似ている境遇を知り、初恋の人をふと思い出したかのような、ツンとした感覚が胸に滲みました。
渡辺さんはアメリカから帰国後、複数のベーグル店での経験を積んだ後ぐるぐるべゑぐるへ。
日本でも見かけることも増えたベーグル。出合えば出合うほど、それぞれの個性やこだわりに違いがあること、その違いこそが魅力だと実感し「みんな違ってみんな良い」、ベーグルの多様性に魅了されます。
ぐるぐるべゑぐるといえば
ぐるぐるべゑぐるの特徴といえば、なんといっても独創性豊かなフレーバー生地と丁寧に手作りされるフィリング、その生地とフィリングが重なったときに生まれる絶妙なマリアージュです。
店先には、お食事系・おやつ系のベーグルに加え、これぞ「断面萌え」のベーグルサンド達が並び、これを前にして瞬時に注文を決められる人なんていないのでは、と思う程でした。
何を選んでも、思わずベーグルを両手で丁寧にお皿に戻し拍手を送ってしまうくらい、生地自体のおいしさ、サンドの完成度の高さ、唯一無二のアイデンティティに脱帽。
どのベーグル達も筆者のこれまでのベーグル史の中でも太字に蛍光ペンでキュッとマーカーされ、強く印象に残っています。
ここから、ぐるぐるべゑぐるへのこれまでの軌跡に心からの敬意を表し、そして感謝の思いを胸に、特に印象深く残っている商品2つをご紹介します。
カレーとマンゴーレーズン

意外な組み合わせのようですが、これがもう絶妙。
スイートな味わいも感じさせるネーミングですが、生地はしっかりスパイス。お口の中にスパイス達のお囃子と太鼓が鳴り響いて、お祭りヒーハー。表面にあしらわれたフライドオニオンが一層お祭りの空気を押し上げます。
熱気に満ちた空気の中をすーっと通る風のように、でもしっかりと心地よさを与えてくれるのが、ぷちゅっと弾けるジューシーなレーズン、後を追うように夏の香りを寄せてくるドライマンゴー。
まるで一枚のプレートに盛られたスパイスカレー、脇に添えられた付け合わせのアチャールをいただいたかのような満足感を味わえる、夏色のベーグル。
鯖サンド

定番メニューとして多くの人の舌を唸らせた鯖サンド。
表面はもちろん、中にも「プチプチっ」と存在感を放つ金ごまが香ばしく香る生地に、カレー風味に焼き上げられた肉厚な鯖。ぎゅっとした味わいの鯖に寄り添うクミンでマリネされた紫キャベツにたっぷりのレタス、全体をまとめ上げるのは爽やかなレモンペッパーマヨネーズ。
一つ一つの具材がしっかりと己を主張しつつも、何か一つが特出しない。みんなで手を繋いでゴールテープを切るようなバランスの取れた味わい。
しっかりとしたボリューム感の具材であるにもかかわらず、負けないほど旨みを主張してくる生地とのマリアージュが溜まらない逸品。
閉店の一報を受けて
閉店のお知らせが発せられた後は、筆者と同じように同店のベーグルに魅了されたファンのお客様が連日来店されたのだとか。
店頭で商品を選んでお会計をする、その僅かの時間に、同店のベーグル達への思いを伝えられたお客様がたくさんたくさんいらしたのだろうなと思うと、その光景を思い描きながらぎゅっと胸が熱くなります。
決して広いとは言えない、ちょこんと佇むお店の空間がたくさんの方の「ありがとう」で満たされたのではないでしょうか。
ひとつの区切りをつけてこの場所を離れなくてはならないことははとても寂しいのですが、ベーグルを作ることも食べることも大好きなことは変わらないどころか大きくなったので、
場所や名前が変わってもまたいつかどこかで皆さまにお会いできるよう努力してまいります。ぐるぐるべゑぐる公式Instagramの投稿より
またいつか、どこかで。
お口と心をいっぱいに満たしてくれる、ぐるぐるべゑぐる店長 渡辺さんのベーグルに会える日を心待ちにして。
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